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福岡高等裁判所 昭和49年(ラ)7号 決定

抗告人(文書提出命令申立人)

植原秀宜

相手方

株式会社天山商店

右代表者

七田久夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は「本件相手方を原告、抗告人を被告とする福岡地方裁判所昭和四六年(ワ)第五五五号立替金等請求事件について、抗告人は相手方の所持する福岡税務署長作成の「酒類類販売免許の通知について」と題する書面の提出を相手方に命ずることを求める文書提出命令申立をしていたところ、同裁判所は昭和四九年一月一七日の第一五回口頭弁論期日において右申立を却下する決定をした。右文書は相手方の主張する債権譲渡の事実がなく相手方が原告適格を有しないことを明らかにするとともに、抗告人の重要な主張である消滅時効の立証に欠くべからざるものであつて、これが提出命令を却下した原決定は不当であるから、これを取り消し相手方に対し右文書の提出を命じ、本件抗告費用は相手方の負担とするとの裁判を求める。」というにある。

そこで、右訴訟事件及び本件申立事件の記録について検討するに、抗告人は昭和四七年五月一八日の原審第六回口頭弁論期日においてその主張の文書提出命令の申立をしたところ、原審は昭和四九年一月一七日の第一五回口頭弁論期日において、これとは別個に口頭弁論期日外の昭和四六年一二月二一日にした抗告人の相手方に対する帳簿等の文書提出命令申立を却下しながら、本件申立については右第一五回口頭弁論期日まで何ら採否を決することなく同日弁論を終結していることが認められ、被告人主張の右申立却下決定が明示的になされたことを認むべき資料はない。しかし、原審の右の措置からみると、おそくとも右昭和四九年一月一七日の口頭弁論期日において、弁論終結前に原審は抗告人の本件申立を採用せず黙示的にこれを却下したものと認めざるをえない。

ところで、右記録中、証人等目録(被告申出分)の本件文書提出命令申立の備考欄の記載によると、昭和四八年一月三〇日の原審第九回口頭弁論期日において、原告訴訟代理人から別件の福岡地方裁判所昭和四六年(ワ)第五五四号事件で抗告人の提出を求める文書を任意提出したことの陳述がなされていることが認められる。そうであれば、抗告人としては、別件で任意提出された文書が原審に領置されているときは、その顕出を求めてこれを援用するか領置されていないならば、本件第五五五号事件においても相手方に任意提出を求め、この場合はすでに別件で任意提出されている以上、その文書が提出できる状態にあるかぎりは本件訴訟においても任意提出が期待できることはいうまでもないから、これによつて提出された文書を援用することによつて抗告人が本件申立によつて立証せんとする目的は容易に達しえられ、いわば本件申立によつて文書が提出されたと同じ程度の訴訟状態にあることが認められる。

そして、右第五五五号事件においては、抗告人の訴訟代理人として弁護士牟田真が弁論の当初から終結に至るまで終始訴訟追行をしていたのであるが、右のような訴訟状態にあつて同訴訟代理人が、それでもなお本件申立についての裁判を積極的に原審に求めたことをうかがうに足りる資料はないところからみると、右訴訟代理人は原告訴訟代理人の別件での任意提出に伴う爾後の上記のような手続によつて本件申立の目的を達しうるものと認めていたものとも思えるし、更に記録上明らかなとおり、右抗告人の訴訟代理人があえて弁論終結まで右の手続をとることもなく、また弁論終結にあたつても、別の文書提出命令については明示的に却下し、本件申立については明示的に却下しなかつた原審の措置に対して直ちには何らの主張もしていないところからみると、右訴訟代理人においては本件申立はすでに実質的にその目的を達したものと認めてこれを維持する意思はなかつたものとさえ認めることができる。

以上のような訴訟の経過事態に鑑みるときは、もはや本件申立はその必要性を欠き、原審がこれを却下しても抗告人の立証を制限したことにはならず本件申立に対する原審の右措置は必ずしも違法とはいえず、本件抗告は理由がない。

よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人をして負担させることとし主文のとおり決定する。

(池畑祐治 生田謙二 富田郁郎)

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